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2021年4月23日金曜日

ETAポン、セリタポンとは何かを真面目に考える[2021年の評価]

「ETAポン」や「セリタポン」という言葉を見たことありますか? この記事に検索で訪れた人は、それらが嫌われているから不安に思って調べてこられたことでしょう。

そう言われても仕方ない時代もあったようですが、2021年現在では状況が変わっていますし「単純に判断すべきでない」と言える時代に突入しています。

なぜETAやセリタを嫌う人がいるのか? なぜ私が「単純に嫌うべきではない」と言えるのか? そのあたりを詳しく解説してゆきます。

☆本日のお題

・ETA2824-2やSW200




〇最初に結論


 今回の記事でお伝えしたいのは「時計はトータルバランスで考えるべき」ということです。「機械がETAだからセリタだから」という理由だけでマイナス評価をすると、重要なことを見失いかねません。

 ETAの、もっと言うとETA2824-2を使っているとしても、それは『機械を理由に大幅な加点は無いかもしれないけど、減点もない』というのが、2021年現在での私の評価です。限定するなら、3針のモデルで20万円程度の価格帯ならば『ちゃんとした機械が入っている』ぐらいの評価で良いでしょう。50万円以上となってくると、他の要素や、搭載されている機械の詳しいスペック(型番だけではなく、オプションや仕上げ)について検討しなければ正しい判断はできない、というのが私の考えです。



〇ETAポン、セリタポンとは何か?


 ETA、セリタは共にムーブメントメーカーの名前です。時計メーカーが外装を作って、ETA製やセリタ製の機械を「ポン」と載せた時計が、ETAポン、セリタポンなどと言われることがあります。(私はそうは評価しませんけど。)

 1960年代~70年代の機械式時計が主流だったころには、時計メーカーは多かったですし、自社でムーブメントを作っているメーカーが多かったです。(最近はクラウドファンディングなどで小規模メーカーが増えていますが) さらに、ムーブメントを他社に卸しているメーカーも多かったです。

 ここにクォーツの登場によって小規模なメーカーが淘汰や吸収合併されてゆきました。また、売れない物を作っても仕方ないので、自社ムーブメントを辞めるメーカーも出ました。当然ですよね。

 このころに、ムーブメントメーカーが(ピンチなので)多数合併してできたETAが様々な時計メーカーにムーブメントを卸すようになりました。ムーブメントを作れない各社や、安価な時計まで自社ムーブメントをコスト的に載せられないメーカーはETAのムーブメントをたくさん採用するようになりました。大量生産すると安価になるのは当然なので、ETAのムーブメントがさらに安価になり、ETAムーブメントを採用するメリットがより大きくなりました。


〇ETAポンやセリタポンが嫌われた理由


 このような背景の中で、非常に高価なモデルにもETAの汎用ムーブメントを搭載する時計が出てきます。スペックだけ見ると、10万円以下(以前はそれぐらいでもあった)の時計と同じムーブメントを、高価なモデルが搭載しているように見えます。これに対して「こんなに高いのにETAのムーブメントをポンと載せただけ!昔はみんな自社ムーブメントを作っていたのに!」と悪く評価する人が出てきたわけです。気持ちは分かります。


〇時代はかなり変わった


 このような何にでもETAが載っていた時代は大きく変わります。

 かなり政治的な問題が絡むので省略しますが「ETAが独占禁止法の都合で、グループ外にムーブメントを卸すのが難しくなった」ということが発生しました。ざっくりと伝えましたが、ETA側の思惑や都合もあるので、使いづらくなったぐらいに思うのが良いです。

 この状況で、自社ムーブメントを作る体制の無い各社は辛い状況となります。この時にシェアを拡大したのがセリタです。

 セリタのムーブメントは、当初は信頼性に難があったようですが、最近はかなり高信頼となっています。というのも、IWC等が採用して、相当の改良を加えさせたようなのです。


 2021年現在でETAのムーブメントを採用しているのは、同じグループのスウォッチグループと、従来から取引があった一部の(比較的小規模な)時計メーカーです。ただ、この従来から取引のあったメーカーも、セリタに置き換えたり、力のあるところは自社製を開発するなどしています。
 最近は自社ムーブメントが出そろってきて、それぞれの安定性も高まってきました。なので、真面目なメーカーのものであれば、安心して選ぶことができるようになってきました。

 

〇なぜETAやセリタばかり嫌うのさ?


 ムーブメントを自社開発するは非常にリスキーで努力が要り、資金力が必要です。リリースするだけなら大丈夫でも、その後の保守の問題があります。

 このような状況の中で、信頼性があり、保守部品の入手も可能なETA2824やSW200などの汎用ムーブメントを搭載していることは、安心材料となります。この系統のムーブメントは非常に歴史があり、採用実績も豊富なだけに熟成が進んでいます。なにより、信頼性が高くなければここまで使われていません。

 さて、比較的低価格なムーブメントには、セイコーの4R系や6R系、もう少し安価な物でミヨタ(シチズン系)があります。(各社、小規模メーカーに卸したりしています) これらと見比べた時に、2824の系列は見劣りするところはありません。(得意不得意や価格差もあるので、どちらが良いとは言えない)

 自社でムーブメントを作るセイコーやシチズンは偉いですが、「自社でムーブメントを作っているから」という理由だけでセイコーダイバーズが優れるか?と考えると、それは違うはずです。

 より正確に評価するためには、防水などのケースに由来する性能、デザインや着け心地、外装の仕上がり具合、価格なども検討するべきでしょう。

 最近私は、いわゆるユニタスムーブメントを搭載しているパネライ ルミノールを購入しました。わざわざユニタス搭載機を選びました。
 「ユニタス」と書きましたが、これは現在の正式名称はETA6498です。ETA製です。なので、ユニタス搭載のパネライだって「ETAポン」です。


 では、当時のパネライを指さして「ETAポン」と呼ぶでしょうか? なんだったら「ユニタス時代が良いよね!」と言ってわざわざ探す人もいるぐらいです。小規模なメーカーが6497/6498を使った魅力的な時計を出していますが、これもETAポンと呼ぶでしょうか?

 そもそもスウォッチグループのロンジンやハミルトンがETA系のムーブメントを使っているのは自然です。(その場合は独自のチューニングが施されているのが多いですが)

 ETAだから、セリタだから、という理由で嫌うと、変な判断をしてしまう可能性があることが分かっていただけましたでしょうか?



〇仕上げやグレードにも着目すべき


 「いや、ユニタスは別で、2824を載せただけなのが良くない」という人もいるでしょう。しかし、それでも検討が不足しています。先のルミノールの件で省略したことがあります。それは仕上げや調整についてです。
 
 ルミノールは独自の仕上げを施したムーブメントを搭載しています。精度も上々です。2824だって、部品で仕入れて、しっかりと仕上げを施して、自社で組み立てて、調整を施した上で搭載しているメーカーも多いです。

 あまりセイコーを悪く言うのも筋違いですが、セイコーのムーブメントで仕上げを施して見栄えが良くなってくるのは6L35搭載の30万円以上のモデルからで、2824にしっかりと仕上げを施して、それなりの価格の時計に仕上げてくるメーカーは真面目であると評価してよいでしょう。
(そのかわりセイコーは、数万円の7S搭載機だって信頼性も高くて安定しているので、そこに価値がある。)

 ETA2824-2や、薄型で少し高価なETA2892A2もきっちりと調整すれば安定して精度が出ます。私はETAのムーブメントを搭載した時計を3本所有しています。Steinhartとアルキメデ、Tudorですね。このなかでTudorプリンスは高価な部類になります。
 どれも精度が出ていて、日常使用で安定しています。プリンスは最上位グレードのムーブメントを使用しているようで、装飾もしっかりしているようです。(実物は見ていない)



(省略しますが、2824と一口に言ってもグレードがあり、細かくオプションが選べます。最低グレードから最上位グレードだと価格も仕上がりも変わってくるので、2824だから!という理由だけでマイナス点をするのは検討不足です)



〇ではどのように評価すべきか?


 時計はトータルバランスで評価すべきです。

 2824をはじめとした汎用機械をそのまま搭載したモデルは「各社の独自の工夫の入ったムーブメントではないので、そこに面白味は無い」「安定して信頼性の高いムーブメントを搭載している」という両方が成り立ちます。

 10~20万円の、機械式時計では比較的安価な価格帯で時計を検討した際に、ETA2824搭載機ならば「安心できる」と評価してよいでしょう。ここに仕上げや調整が加えられているなら、真面目に作られた時計であると評価してよいはずです。
 そしてこのモデルの見た目が好みで、外装の品質が好みであれば「買い!」と判断しても良いのは無いでしょうか?

 50万円以上の時計となると話が少し変わってきます。最近はほとんどありませんが、2824をそのまま使用していたら「機械に独自性や、他のモデルに勝る特別な面白さは無い」と評価されることでしょう。ここで重要なのは、マイナス評価では無く、加点要素ではない、という点です。ならば、外装がその価格に見合った物でなければ、コストパフォーマンスは低くなってしまいます。

 ボールウォッチは、ETAベースながら耐衝撃性をメチャクチャ上げた魔改造モデルを出したりしています。また、外装に力を入れて耐磁モデルを出しているメーカーもあります。このあたりの「時計としてどのような魅力があるか?」は考えるべきです。

↑RR1102Cは、ETA2836-2ベースとされていますが、別物と言える程に改良がくわえられています。性能の詳細はリンク先に書かれています。

 2824ばかり取り上げましたが、定番のクロノグラフムーブメントであるETA7750(バルジューとも書かれることがある)の場合は、もう少し価格が高くなります。これはムーブメント自体が高くなり、部品購入→自社組立だと組立コストも高くなるからです。
 ETA7750をベースとした(ほぼ魔改造みたいな)ムーブメントも多くあり、こちらも「実態はどうなのか?」を検討した上で評価すべきです。



〇最後に


 「難しい?」「結局何が言いたいかの?」ですって? いや、そうなんですよ。難しいのです。スペックだけで時計を語るのは変なんです。ましてや、ムーブメントの型番だけで時計を選ぶのは自然ではないのです。

 以前より多少は時計に詳しくなった自分は、最近余計に「このあたりの汎用ムーブメントの評価をどのあたりにおくべきなのか?」本気で悩むほどです。全くの時計初心者の人が正確に判断することは無理だと思います。

 安価でも自社ムーブメントを開発しているメーカーの取り組みが偉い!とプラス評価して購入を検討するのも良し、3針のシンプルなモデルなら20万円ぐらいの、クロノグラフなどなら30万円かな?「自社ムーブメントの搭載が難しい価格帯」でETAを使っているブランドの外装の仕上がりやデザインの良さから検討しても良し。

 好きなデザインの時計だけど、ETAの汎用ムーブメントを載せているのを嫌って避けてしまうのは、結構もったいない選択だと、今の私は考えています。

↑2824搭載機で欲しいのは断然これ。堅牢、高耐磁、直径40mm以下、厚さ10mm以下と実用機として最高。そして20万円以下。ツールとしては非常に良い!!