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2020年11月1日日曜日

長いパワーリザーブは必要なのか?[腕時計]

最近、新型ムーブメントの発表や、時計のモデルチェンジではセットとなっている「パワーリザーブが長くなった」という発表。

動く時間が伸びることはよいことなのは分かりますけど、それって本当に必要なの?というあたりを私なりに考えてみたいと思います。



〇そもそもパワーリザーブとは


 時計が動き続ける、車で言う航続距離を時間換算で示したものです。燃料タンクの大きさ(L)に燃費(km/L)を乗じたものといった感じでしょうか? では、たとえばパワーリザーブが40時間の時計の場合、完全に巻き上がった状態から40時間で止まるのか?と言われればちょっと違います。

 各社の考え方の違いがありますが、良心的なメーカーの場合は「精度がメーカーの基準内に収まっている時間」を指していることが多いようです。(聞いた話で恐縮ですが)
 
 

〇各社、なぜロングパワーリザーブ化するのか?

 
 最も嫌な言い方をすると、パワリザの時間に注目が集まっており、それが長ければ話題性があって売れるから、というマーケティングからの視点があります。各社、その観点はゼロではないはずです。
 
 当然、メリットがあるから注目されるわけです。一般的にイメージされるのは、時計を止めずに運用できて便利である、ということでしょう。
 スマホで簡単に時間がチェックできる現代において、1本の機械式腕時計をずっと使うのではなくて、複数本を使い分けたり、仕事が終わってからわざわざ着用したりと、趣味として時計と付き合う人の割合が機械式時計技術が円熟した70年代以前よりも増えていると私は考えています。そうすると、手巻きを怠ったり自動巻きの巻き上がり量が足りずに、使おうと思ったら止まっていることが多くなってしまいます。パワリザが長ければ、止まらず動き続けてくれて嬉しい!とメリットを感じるわけです。
 
 
 そもそも、時計が止まっているのが普通で「使う前にちょいと巻き上げて時間調整すれば良いじゃないか!」という考えももっともです。もう少し実使用に基づいて考察してみましょう。



〇ロングパワリザのメリットを具体的に考える


 自動巻きの場合、着用して人が動けば巻き上げられますから、時計を使う日と使わない日がくっきりと分かれている人は、先に書いた「動き続けている時間」であるパワリザが長い方が便利そうです。
 着用機会が多い人でも、デスクワークが多かったり、リモートワークで出歩かない場合は、十分に巻き上げられない可能性も高くなります。
 そのような場合、巻き上げ量(プラス)と消費量(マイナス)の差分がマイナスとなる可能性があります。この時、パワリザが長い方が動き続けている期間が長くなります。例えば、完全に巻き上がった状態からスタートしたとして、一日で14時間分しか巻き上がらない生活を毎日続けた場合に、パワリザ40時間だと4日で底を突きますが、パワリザ100時間だと10日間も持ちます。



〇ロングパワリザ化は精度にも影響を与える

 
 ロレックスが自動巻きのパーペチュアルを開発した際には、着用していれば巻き上がって止まらない利便性の他に、精度を維持することを強く意識していたとされています。
 ぜんまいが発揮する力は、巻き上がり状態によって変化します。緩んだ状態でも均一な力を発揮できるような工夫はされてきているはずですが、最新のグランドセイコー9SA5が特性の違う2つのぜんまいをダブルバレルで繋いで力を一定にしていることから考えると完璧に均一な力を発揮するぜんまいは難しいのでしょう。
 よって、ぜんまいが完全に巻かれた状態を基準に調整を行い、自動巻きによってそれを維持することが精度の維持に繋がる、と考えてよさそうです。

 ロングパワリザ化のためのひとつの手法として、長いぜんまいを搭載して、長く時計を動かすことができる力を蓄える方法があります。すると、ぜんまいが少し緩んでも十分な力を発揮できるため、精度が安定している時間を長く確保できることに繋がります。さらに、全体の動作効率も高めて動作時間を長くする手法もあるため、これも精度の安定性に寄与すると考えて良さそうです。(一般論ですよ!)
 極端なことを言えば、人の運動量が小さくて巻き上げ量が少ない生活の場合に、ロングパワリザ機の方が精度が維持できる期間が長くなる可能性が考えられます。これはメリットとして考えて良さそうです。(トータルバランスなので、これも一般論です)

 また、手巻きのロングパワリザ機では、多少巻き上げを怠っても止まらずに精度を維持してくれるので、これはメリットが分かりやすいですね。



〇最後に


 ここまで、ロングパワリザが価値を高めるとして議論を進めてきました。ロングパワリザが精度の維持に効いているならば、長い動作時間が必要でなくても多くの人にメリットが生まれそうですね。
 
 これに対して、効率の良い自動巻き機構を搭載していれば、人の運動量が小さくても止まりにくく、精度も安定すると考えることもできます。そもそも、毎日しっかり巻き上がるだけ運動する人にはメリットを感じにくくなります。
 
 さらに、パワリザが短ければ価値が低いか?と考えれば、それは違います。そう断じてしまうと、過去の名機の価値が下がると言っているようなものです。それは乱暴でしょう。操作感や仕上げ、その機械の歴史など、時計を様々な要素のバランスで考えた方が楽しめると思いますよ。

 ですので、ロングパワリザ化が一概に「良い」「必要ない」ではなく、自分の使い方と照らし合わせるのが良いと考えています。時計が止まる心配が少ない安心感や、スペックが高い時計をこだわって身に着けている!という喜びもまた時計の楽しみ方で、十分に価値があると純粋に感じています。
 以上、いろいろと書きましたが、様々な観点から自分の感性や価値観にマッチした時計に出会えることを、私は常に願っております。

 
なお、今回の記事では、ロングパワリザ化の手法の詳細については省略しました。ここを考察すると、ムーブメントによっては、テンプの小型化や振り角の縮小のデメリットまで考える必要があり、煩雑になるためです。別の機会に扱えれば…と考えています。